洋書レビュー
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マイルス・デイビス自伝

Miles: The Autobiography

邦訳も出ているが、これはペーパーバックの原書。わざわざ原書を読む面白さは、言葉の独特のニュアンスが味わえること。翻訳ではオリジナルのリズムやニュアンスがわからなくなる。これはマイルスの語りをクインシー・トループが書きとめた「口述筆記」なので、黒人英語の特徴がとらえられている。スラング辞典にも載っていない言葉や用法が多いが、読みすすむうちにだんだん分かってくる。尊敬するエリントンを“Mother---er”などと呼んでいるが、これは最上のほめ言葉なのだ。
マイルスの生涯の「伝説」がみずからの言葉で語られているので興味は尽きない。ギル・エヴァンスとの出会いと深い友情、モンクとの「けんか」のいきさつ、アーマッド・ジャマルの音楽へのあこがれ、ジュリエット・グレコとの恋のてんまつなど、さまざまな話題が満載されている。もちろん自身の音楽の話も豊富で、何をきっかけに、どういう意図で新しいスタイルに挑戦していったのかが語られている。これを読むとマイルス作品の聴き方も変わってくるかもしれない。

 

Miles: The Autobiography

邦訳はこちら
マイルス・デイビス自叙伝 (1)
マイルス・デイビス自叙伝 (2)

クインシー・トループ
マイルス・アンド・ミー

ジャズ・アネクドーツ

ジャズ・アネクドーツ改版

Jazz Anecdotes: Bill Crow

ある海外の書評に「千回以上笑えることを保証する」と書いてあった。じっさいおかしな話が多くて、ジャズ・ミュージシャンは「変人」ばかりなのかと思えるほど。その一方、ジャズ界のさまざまな興味深いエピソードが紹介されているので、これ一冊ですっかり物知り博士の気分になれる。ジャズ雑学博士養成本!知りあいにジャズファンがいたら黙っていられない!
ここに紹介されたベニー・グッドマンのエピソードは大変ショッキングだ。あのいかにも温厚な紳士というイメージがくずれてしまう、とんでもない話が載せられている。クロウは次の著書『さよならバードランド』でも自らの体験としてグッドマンの驚くべき行状を暴露している。映画『ベニー・グッドマン物語』はかれからすればおとぎ話でしかないのだ。「被害者」の一人として。ほかにもえっ、あの人が?と思うようなエピソードがいくつもある。

この本は笑い話で読むジャズ史にもなっている。なかでもジャズ誕生の頃のエピソードはなかなか知る機会がないので貴重だ。フレディ・ケパード、キッド・オリー、そして若き日のサッチモの姿がいきいきと描き出されており、ついオールドジャズを聴きたくなる。

巻末に人名索引がついてるのも便利だ。わたしの場合、ジャズCDの紹介を書くとき参考にすることがあるので重宝している。

今年(2005年)になって村上春樹による邦訳(和田誠のイラスト入り)が文庫本化された。チェックしてみたらエピソードの収録数が少ない。収録順もちがうし『ニックネーム』という章がまるまる省かれている。ズート・シムズがなぜズートなのかという話は別の章に移動している。しかしチャーリー・パーカーがなぜバードなのかについては、見あたらない!
その話はこうだ。かれがまだジェイ・マクシャン楽団のメンバーだったころ、ネブラスカに演奏旅行に出かけた。牧場を横切っているとき、パーカーの乗っている自動車がニワトリをはねてしまった。「おい、戻れ。ニワトリをはねちまったぞ。」パーカーは自動車を引き返させ、ニワトリを拾いあげた。その日の宿に到着するとかれは女将に言った。
「これを夕食用に調理してくれ」
それ以降パーカーは「ヤードバード」あるいは「バード」と呼ばれるようになった。

さらに今年、原著も改版された(左写真)のでこれもチェックしてみた。表紙が変わっただけでなく印刷用紙が上質になり、本文もすべて組み替えられている。しかし初版にはなかった誤植があるのはどういうわけだろう。ふつう改善されるものだろうに。

 

Jazz Anecdotes
Jazz Anecdotes (2005)

邦訳はこちら
ジャズ・アネクドーツ
文庫本も出た
ジャズ・アネクドーツ(新潮文庫)

さよならバードランド

editor's choice

さよならバードランド:ビル・クロウ(著)
あるジャズミュージシャンの回想

ベーシスト、ビル・クロウの半生記。アル・ヘイグやジェリー・マリガンとの共演で知られる人物だ。前著『ジャズ・アネクドーツ』につづく本書はかれの文筆家としての成長を示すものとなった。音楽を志した少年が紆余曲折を経てジャズ界に入り、さまざまな出会いや試練を経て成長していくさまがていねいに描かれている。訳文もたいへん読みやすいし、和田誠のイラストもうまい。

かれが参加したセッション、友人たちのエピソードなどを読んでいると、つい関連するアルバムを引っぱり出して聴きたくなる。へー、そんないきさつで録音されたのか、なんていう「意外なウラ話」が紹介されているので興味がわくのだ。意外といえば、エリントンやグッドマンの「意外な話」には誰しも驚くだろう。ジーン・クイルのハチャメチャな性格、ポール・サイモンのわがまま、ほかにも興味深い話題がぎっしり。筆者は「いい奴」だけれど観察眼・批評眼が鋭い。かれらのエピソードが面白く読めるのはそのためだろう。

邦訳はジャズに関連のない記事が割愛されている。全部読みたい人は原書を。

巻末に付された訳者村上春樹氏によるレコードガイドが面白い。一応本書に関連のあるアルバムが紹介されているのだが、氏の趣味が色濃く反映されている。入手不可能なLPが多いから役に立つとは言えないけれど、ジャズ歴の長い人には懐かしいし、読んで楽しいガイドになっている。

 

さよならバードランド(新潮文庫)
ハードカバーは
さよならバードランド

洋書はこちら
From Birdland to Broadway

ブルースの伝説

Blues Legends: Charles K. Cowdery

ブルース・ミュージシャン列伝、CD付き。ブラインド・レモン・ジェファーソンからバディ・ガイに至る20人のミュージシャンを採りあげ、かれ/かの女らの生涯を紹介している。アルバート・キングやサニー・ボーイ・ウィリアムソンがいないのが不思議だが、十分もりだくさんではある。
とにかく破天荒な一生をおくった人が多い。ジャズ・ミュージシャンが申し合わせたようにヘロインで命を縮めているのに対し、ブルース・ミュージシャンは申し合わせたように酒と喧嘩で早死にしているのはなぜだろう。マディ・ウォーターズやB.B.キングは例外的にクリーンな人物だったようだ。総じて初期の人の生涯ほど悲惨で、米国黒人がいかに「下層の人々」だったかが分かる。20人も採りあげているので詳しいわけではないが、興味深いエピソード満載で読み応えがある。ブルーズ入門者にはミュージシャンの人となりを知るための恰好のガイドブック。
巻末におすすめアルバムと関連本の紹介が載っている。本はさておき、おすすめアルバムには少々偏りが感じられる。もっとも、右の一覧で紹介したマスターのおすすめも偏っていない保証はないけれど…。

付録のCDは10曲入り。マディの“Long Distance Call”、B.B.の“The Thrill is Gone”、フレディの“Hide Away”といった「極めつけ」が入っている。アーサー・クルーダップの“That's All Right”はエルヴィス・プレスリーが最初期にカバーして大ヒットさせたものだ。ほかにメンフィス・ミニーの音源なども収録されている。

  Blues Legends

収録アーティスト
・Blind Lemon Jefferson

・Memphis Minnie
・Big Joe Williams
・Son House ・Arthur Crudup
・Roosevelt Sykes
・Little Brother Montgomery
・T-Bone Walker ・Howlin' Wolf
・Robert Johnson
・Lightnin' Hopkins
・Muddy Waters
・Memphis Slim
・John Lee Hooker
・Jimmy Reed ・B. B. King
・Little Walter ・Freddie King
・Otis Rush ・Buddy Guy

 

Mozarts Klavierkonzerte

モーツァルトのピアノ協奏曲ガイドブック。弦楽四重奏のガイド(下記参照)と色違いのデザイン。ト音記号をアレンジしたお洒落な装幀だ。
ごく初期のものをのぞく22曲、よく演奏される曲はすべて掲載されている。それぞれの曲の構造がわかりやすく解説されているので、聴きながら読むと楽しい。主要モチーフのほかモーツァルトがほどこしたさまざまな工夫が五線譜で示されている。特徴的な和声進行も譜面で見ることによってよく把握できる。
各曲の楽器編成のほか、提示部、展開部、再現部といった楽曲構成の詳細が一覧で示されているのが参考になる。全体像がつかみやすい。

  Mozarts Klavierkonzerte
 

Mozarts Streichquartette

こちらは弦楽四重奏曲のガイドブック。新書版とほぼ同じサイズだが情報量は多い。
編集方針は上記協奏曲編と同じ。モーツァルトのさまざまな工夫やひらめきが文章と譜面によって簡潔に示され、たいへんわかりやすい。視覚的情報は理解の助けになるし、聴いているだけでは気づかなかった面白さを教えてくれる。
曲の構造を示した一覧も役立つ。導入部、第一主題、第二主題…とつづく曲の構造を小節数とともに示してあるので、複雑なソナタ形式など構造がわかりやすいし、現在どの部分を演奏しているのかもわかる。またモーツァルトが古典派の典型的構成にのっとりながらも、柔軟な解釈でのびのびと曲作りをしていたことがわかるのも面白い。ほかにも読み手の興味次第でいろいろなことが読みとれそうだ。

  Mozarts Streichquartette
 
吹奏楽ガイドブック

〈200CD〉吹奏楽 名曲・名演:磯田健一郎(編)

オビにある「未発掘の宝の山、吹奏楽。これから聴き始めるビギナーのための、初のCDガイド」という言葉がそのまま内容をあらわしている。やっている人は知っているがそれ以外の人はまったく知らない、というのが吹奏楽の作曲家であり、作品である。フィリップ・スパークの『イヤー・オブ・ドラゴン』はギョーカイ人の間でのみ有名なのだ。そういう現状を打破すべく書かれたのが本書である(大きく出たもんだ)。
執筆者は磯田健一郎ほか18名。伊藤康英、吉松隆、外園(くにがまえに有が正解)祥一郎らの名前もある。それぞれの立場でけっこう気楽に書いているので面白い(もしくは可笑しい)。これならギョーカイ人が読んでも楽しいことうけあい。
クラシックファンにはモーツァルトやグノー、サン=サーンス、ロドリーゴ、黛敏郎たち有名人が吹奏楽作品を書いていることを知るきっかけになるだろう。この本を参考に幅を広げていただければ幸いである(誰の立場で言ってるんだか)。
ただ困難な問題もある。紹介されているCDが必ずしも入手しやすくないということだ。吹奏楽専門レーベルの場合、扱っている店を見つけるのに苦労する。何とかなりませんかね〜。

附記)そうなんですよ。なかなか売ってない。当カフェの吹奏楽コーナーで紹介してるアルバムも、あるとこにはあるがないとこにはない。レーベル名やCD番号を明記するようにしてるので、興味のある方は自力で探してください。

  200CD吹奏楽名曲・名演

姉妹編もぜひ
200CD管楽器の名曲・名盤
伊藤康英の本
管楽器の名曲名演奏
勉強したい方は
ブラスバンドの社会史
 
オーケストラの秘密

〈200CD〉オーケストラの秘密:金子健志(編)

ありそうでなかったオーケストラの秘密暴露本。怪しい本かって?ちょっと怪しいかな。はやい話がさまざまな作曲家がさまざまな作品に凝らしたさまざまなオーケストレーションの工夫をさまざまな方々(7名)が解説している本。
実際CDを聴いていても、あるいはナマを聴いていても、この音はどうやって出しているんだろうと不思議に思うことがよくある。『ドン・キホーテ』のウィンド・マシーンなら見ればわかるが、複数楽器の微妙なブレンドは判りにくい。聴き慣れた楽器が聴き慣れない音を出したりすると、どんな奏法をやってるのか気になる。いちいちスコアを見るわけにもいかないしな〜というとき、この本の登場だ。
作曲家たちがどういう楽器用法であの効果を出しているのか、判りやすく解説してくれる。楽器の進歩によってはじめて可能になった表現のあれこれも、多くの例を引いて紹介される。創意工夫のかたまりみたいな作曲家がけっこう多かったのもわかる。

怪しいと書いたのは演奏家の立場で書いた記事が多いため。どの曲でどんな苦労をさせられるとか、凡庸な指揮者の棒でやりたくないとか、現場の裏話がわんさと出てくるのだ。演奏不能なパートをどうやって誤魔化すか、みたいな「企業秘密」まで暴露している。
これを読んだ直後に吉野直子を聴きにいったわたしは、かの女の足元ばかり見てしまった。ペダルの使い方が気になったのだ。この本にはハーピストの涙ぐましい努力についても書かれている。

 

200CDオーケストラの秘密

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200CDオーケストラこだわりの聴き方
はじめてのオーケストラ・スコア

 
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