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音楽作品名辞典

クラシック音楽作品名辞典〔改訂版〕:井上和男(編著)

類書なし。名前通りクラシック音楽の作品名がわかる辞典だ。掲載されている作曲家の数は1,240名、曲数は43,900曲に及ぶ。各曲の日本題、原題、作曲年、初演年、楽器編成、主要オペラの場合はあらすじや主要アリアの名前まで記載されている。大物作曲家ならほとんどすべての作品が網羅されており、全容を知ることができる。
個々の作曲家についても生涯のあらましが簡略ながら付せられている。無名作曲家の場合はありがたい。中世から現代まで幅広いのもメリットだ。旧版と較べて現代作曲家が大幅に増えていて、とくに北欧の作曲家が充実した。いなくなった作曲家はほんの数名。
旧版にあったいくつかの誤りも直されているので、まだ旧版をお使いの方には買い換えをおすすめしたい。(余談になるけど、カステルヌオーヴォ=テデスコの『プラテーロとぼく』の解説に、プラテーロは乳母の名前と書いてあった。新版ではろばに直っている。)
巻末の音楽用語解説、作曲者欧字索引、作品名索引も使いやすくていい。音楽用語解説は一般の音楽事典を簡略化したもの。日常的には充分な内容だ。作曲者欧字索引は読み方が判らないとき便利。作品名索引は日本語、欧字、ロシア語で検索できる。これがじつは面白くて、同じタイトルの曲を複数の作曲家が書いているのを発見できる。もちろん素材が同じということがあり得るわけだ。判らないことを調べるだけでなく、さらに興味がひろがってしまう悪魔の辞典でもある。

 

クラシック音楽作品名辞典

一般的な音楽事典なら
新編 音楽中辞典
あるいは
楽典―理論と実習

オクスフォード音楽事典

Oxford Concise Dictionary of Music

手頃なペーパーバックの音楽事典。さまざまな音楽用語、音楽作品、楽器や演奏家、音楽関連団体や組織などについて、コンパクトにまとめられている。有名曲については独立した項目が設けられ、初演日時や作曲の経緯までわかる。演奏家についての情報も多く、歴史の彼方の伝説の人物から現役バリバリまで網羅されている。音楽用語は譜例を示してあるので理解しやすい。そのほか楽器の歴史もわかるし、音楽関係団体のあらましもわかる。音楽史上重要な都市と音楽との関連や歴史もわかる。およそありとあらゆる音楽関連情報がつまっているのだ。
手持ちのCDの99%以上が輸入盤というわたしには必需品。国内盤が出ないような作曲家・作品・演奏家ばかり聴いているからそうなるのだ。そんなわたしが、ブックレットだけでは情報不足というときに引っぱり出すのがこれ。いったい何人の作曲家が掲載されているのだろう。有名作曲家の場合はこれを読むだけでかれらの生涯がわかり、作品リストまで見られる。マイナー作曲家もどんなタイプの曲を書き、何が代表作なのかがわかる。これはコレクション作りの参考になる。英国の作曲家が多いという偏りが見られるけれども、英国音楽好きのわたしには都合がよい。
実用性が高いだけでなく、ひまつぶしとして読んでも楽しい一冊。面白そうなマイナー作曲家を見つけたり、有名作曲家の無名作品を発見したりするので「危険な」一冊でもあるけれど…。

追記)平明で簡潔な文章はとても読みやすい。英語初級者から使えると思う。

 

Concise Dictionary of Music
ハードカバーは
The Oxford Dictionary of Music

オペラ好きには
The Concise Dictionary of Opera

モイーズとの対話

モイーズとの対話―おいたちと演奏論:高橋利夫(著)

当カフェのオーナーはこれを「笛吹きのバイブル」と呼ぶ。笛を吹いたことはあるがついぞ笛吹きにはならなかったマスターは、そんなものかなと思う。
巻頭に多くの人々からの賛辞が載せられている。いずれもモイーズを神とあがめる人たち。何事につけ信者になることのないマスターはいささか歯が浮く思い。しかし本文は面白い。
前半はモイーズの生い立ち。不幸な出生から幸運な出会い、輝かしい演奏歴などが語られる。弟子に導かれてついついしゃべってしまった興味深いエピソードが微笑ましく、モイーズという人間が浮き彫りにされていく。なにかと人生観を語るのも面白い。誘導尋問ふうに現代のフルート奏者を評するくだりではかなり辛辣になり、ガッゼローニなんてみじめに酷評されてしまう。ランパルもお気に召さないようで、理想的なフルート奏者はモイーズしかいないようである。

後半は演奏技法について。ブレスやヴィブラート、モイーズ独特のタンギング法などが語られる。吹いたことのない人にはさっぱり判らないかもしれない。通常の教則本とはちがうことが書かれているので学習者はめんくらうだろうが、奏法は一種類ではないのである。試してみるだけのことはあると思う。ただ舌の長さなど身体的理由によってモイーズが示すようにはできない可能性もある。
モイーズの演奏を知っている人には、あのしなやかな音楽がどうやって生まれたかを知ることができて興味深いだろう。もしあなたが笛吹きではなくても、読んで面白い本だと思うのだが。

 

モイーズとの対話

参考文献:
フルート・アンブシューア
演奏会用フルート名曲集

モイーズを聴く
Flute Fantastique

ウィーン・フィル

ウィーン・フィル 音と響きの秘密:中野 雄(著)

どういう人が読むかで評価の変わる本だと思う。ウィーン・フィルが好きな人なら我が意を得たり。ウィーン・フィルがどんなに素晴らしいか、なぜ素晴らしいかを納得して大満足のうちに読み終えるだろう。しかしアンチの人や他のオーケストラも好きな人は鼻持ちならない思いがするに違いない。
著者はハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンのウィーン古典派を最上ものと見なし、それを身をもって知っているウィーンの街が産んだオーケストラこそ世界最高のオーケストラなのだと言う。その論法でいけば米国や日本のオーケストラがダメなのは理の当然。英国やフランスのオーケストラもウィーン生まれでない故に劣っていることになる。
そんなわけで、ウィーン・フィル・フリークでない人は野次馬根性で読むことをお奨めする。そうすれば非常に面白い本である。業界人ならではの数々のエピソード、裏話が満載されているのだ。笑える話も泣ける話もある。コンサート・マスター列伝はそれぞれの人物のキャラクターがわかって面白いし、ウィーン・フィルと相性の悪かった指揮者たちをウィーン・フィルの立場でけなしているのも興味深い。
もちろんタイトルにある「音と響きの秘密」についても力説されている。使用楽器のちがいなどマニアには先刻承知の話だが、ビギナーには参考になるだろう。

 

<文春新書>
ウィーン・フィル 音と響きの秘密

丸山真男 音楽の対話
音と言葉:フルトヴェングラー
ウィーン・フィル&ベルリン・フィル

音のデザイン

音のデザイン―楽器とかたち

ビューティフル&インタレスティング。表紙の写真は現代のグランドピアノ、裏表紙にはヴィクトリア女王がナポレオン3世に贈ったという装飾過剰なアップライトピアノがあしらってある。ナポレオンの帽子をイメージしたとされる珍妙なかたち。
このブックレットは名古屋で開催された展覧会に合わせて発行されたもの。珍しい楽器、美しい楽器、風変わりな楽器の写真が満載されている。また執筆者が豪華である。

高橋順一○ヨーロッパ音楽の歴史と楽器デザイン
皆川達夫○楽器のシンボリズム―装飾とかたち
関根敏子○近代西洋音楽の集大成―ピアノの生成と発達
藤井知昭○民族の文化と楽器
秋山邦晴○楽譜のデザイン、あるいは聴覚・視覚の記号の冒険
庄野 進○ハイパー・インストゥルメント―楽器としてのコンピュータ
編集部編○楽器のニューウェーブ―クリスタル、セラミックスの新しい楽器
中村 勲○ピアノ―かたちと音
無量塔蔵六○ヴァイオリン―伝統的なかたちと芸術性
安藤由典○管楽器のかたちと性能
大竹昭子○人間の鋭敏な感覚にこたえるハイテク楽器づくり
柏木 博○モダニズムを振り返る

ご覧のように日本のヴァイオリンづくりの第一人者無量塔(むらた)蔵六まで入っているのだ。音響学にまで踏み込んだ専門的な記事を書いている人もいるが、読み応えは充分。ページ数が少ないにしてはずいぶん贅沢な一冊。

 

<INAXブックレット>
音のデザイン―楽器とかたち

コルトレーンを聴け!

コルトレーンを聴け!:原田 和典(著)

これまでに『マイルスを聴け!』『エヴァンスを聴け!』と命令形の迷著が出ていたのをご存知の方もあるだろう。今回は『コルトレーンを聴け!』ときた。著者はマニア系雑誌『ジャズ批評』の編集長をやっていた人物。ちなみにマスターはその雑誌を読んだことがない。したがってマスターはマニアではない(強い断定!)。
肩書きからいってなにやらうるさそうである。ところが内容はマニア、コレクターの著書にありがちなものだった。容易には手に入らないレア盤をならべてみせ、評価の低いアルバムをヒイキし、ピンとこない作品はテキトーに流し、人気盤には少しばかりの苦言を呈し、どこで仕入れたんだというエピソードをあれこれ散りばめていく。要するに面白いんである。

紹介されているアルバムは全部で174タイトル、ほぼ録音の順に掲載されている。ほんの若造時代、アンサンブルの要員として参加しただけの、ソロのまったくない録音まで含まれる。この辺は信者向けのアイテムと言えるだろう。あたしゃまったく知らなかった。出所の怪しいライヴ盤は音質の点で気をつけた方がよさそうだ。マイルズやダメロンのセッションにサイドマンとして参加したアルバムの紹介は、コルトレーンを系統立てて聴いてみたい人には参考になる。
楽譜なし。音楽理論もあまり出てこないので、そういうものが嫌いな人には読みやすいだろう。しかし音楽というのは理論(というか手法)があるわけで、モードやシーツ・オヴ・サウンドにほとんど触れずにコルトレーンの音楽を語るのは無理がある。「心で聴けばいい」んですかね。音楽を聴くのに理屈は要らない、そう考えている人には充分な内容なのかも知れないな。

なんてーなこと言いながら、じつは反省させられた。熱っぽく語ることの面白さを感じたからだ。「俺はこれが好きだっ」と言い切ってもいやらしくなっていない。軽妙でユーモラスな語り口もうまい。つい紹介されたアルバムを聴きたくなってしまう。こんなふうに書けたらいいのに…。

 

コルトレーンを聴け!

マイルスを聴け!(Version 6)
エヴァンスを聴け!

ゴルトベルク変奏曲

バッハ『ゴルトベルク変奏曲』世界・音楽・メディア:小沼 純一(著)

みすず書房「理想の教室」シリーズの一冊。クラシックの代表的な変奏曲の一つ『ゴルトベルク変奏曲』を知的に読み解こうというものだ。

本書は会話体で書かれている。役割分担がはっきりしない難点はあるが、二人の人物の会話の中から時代背景やバッハの生涯が浮かび上がるという趣向は面白い。話は「バロックとは何か」にまで及んでいくし、意外に話題は広汎にわたる。謎解きの要素もあり、バッハの数へのこだわりについての考察は興味深い。
右に示したように授業は3回に分けられている。3回目は「CDを聴きながら」となっていて、変奏の一つひとつを検証していく内容。読んでいるだけでは分からないので、実際に聴きながら確かめることになる。譜例も載っているが、できれば全曲の楽譜がそばにあるといい。バッハはモチーフを重ねたりずらしたり裏返したり伸ばしたり縮めたりして音楽を作っていく。それが視覚的にもよく理解できるからだ。こういう機械的とも(あるいはデザイン的とも)言える作業からあれだけの音楽が生まれているのには驚かされるだろう。

 

<理想の教室>
バッハ『ゴルトベルク変奏曲』世界・音楽・メディア

1)バッハ/身体/楽器
2)《ゴルトベルク変奏曲》はどのように生まれたのか
3)《ゴルトベルク変奏曲》を聴いてみよう

ゴルトベルク変奏曲(楽譜)

ガイドブック 音楽と美術の旅「スペイン」:海老沢 敏(監修)

音楽之友社の「音楽と美術の旅」シリーズは10冊ほどある。実際に音楽好き美術好きが旅行するときに携帯できるように考えられており、都市ごとに美術館、劇場、ホール、ホテルなどが地図、電話番号、所在地とともに紹介された「すぐ使える」ガイドブックだ。
音楽好きがすなわち美術好きとは限らないが、その国、その都市の芸術に触れるために一冊の本で間に合うのは便利だろう。また都市別の編集なので、その都市ゆかりの芸術家がその都市のコーナーに掲載されている。このスペイン編ではミロがバルセロナの頁で、アリアーガがビルバオの頁で、スカルラッティとボッケリーニがマドリッドの頁で紹介されている。ふだん出身地や活動場所で意識しないかも知れないが、こういう知識は見かた聴きかたにも影響してくる。その土地の風土や文化に関連づけられるからだ。
歴史紀行の一面もある。本書の場合は古城めぐり、ギターの歴史、アラブ音楽の隆盛などの記事がある。200頁ほどの冊子によく詰め込んだものだ。ホテルやチケット予約のための文例まであるが、音楽家に弟子入りしたい人のための嘆願書の書き方って、どれくらいの人が活用しただろう。

 

<ガイドブック 音楽と美術の旅>
音楽と美術の旅「スペイン」

他のシリーズ
音楽と美術の旅「ロシア」
音楽と美術の旅「イタリア」
音楽と美術の旅「イギリス」
音楽と美術の旅「アメリカ」
音楽と美術の旅「ドイツ」

 
  音楽の本 1 / [2] 美術の本デザイン書籍絵本・児童書新書選書・叢書文芸その他