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世界のドア

世界のドア〜Doors〜:ベルンハルト・シュミット

ドアというと〇〇エモンみたいなので扉(とびら)といいたい。扉の方が詩情があるではないか。ここに収められた200点近い写真のどれもが、それぞれに独自の詩情を漂わせている。
開けば外界と内界との交流の装置となり、閉じれば秘せられた空間を守る装置となる扉。さまざまな比喩に用いられる扉という装置の多義性、曖昧さ、堅固さ、脆さ…。見ていると色々な思いが浮かんでは消えていく。

オビにあるように「異国情緒あふれる」世界中の扉の写真が満載された美しい本。イスラームの扉は一目でそれと判るし、アジアの少数民族の扉はいかにも貧しそうだ。扉は家の歴史だけでなく、民族や文化のありようまで語るのか。
共通して感じられるのは扉への思い。ここに紹介された扉たちはただの「出入口」であることを拒否している。だからこそ被写体に選ばれたのだろう。作った人は扉にどんな意味を持たせようとしたのか、足を踏み入れる人に何を伝えようとしているのか。わたしたちがふだん通り抜けている多くの扉はメッセージを感じないものがほとんどだ。そのおかげで気軽に通ることができるのだけれど…。

難しい本ではありませぬ。きれいな扉、珍しい扉がたくさん見られる楽しい一冊。上記のような感想はヘンジンのたわごとと思っていただいて、気楽に楽しんでください。

 

世界のドア

姉妹編登場
世界の窓

隠れた(?)人気本
道のむこう
どこまでも続く道

こういう視点もある
小屋―働く建築
路地―Wandering Back Alleys

Chairs Chairs: Charlotte & Peter Fiell

椅子というのは一番セクシーな家具ではないだろうか。192頁の本書に満載されているさまざまな椅子の写真を見ていてそう思った。机も、箪笥も、本棚も、ここまで温もりを感じさせるものはない。椅子は身体に密着するものだからだろう。
アールトのずいぶんシンプルな、しかし美しい木製の椅子。ガウディの植物的曲線を活かした椅子。トーネットの古典的名作。ミース・ファン・デル・ローエもあればマッキントッシュもある。もちろん最新の5本脚回転椅子も。見なれた椅子がじつは有名人のデザインによるものだったりして、そんな発見も楽しい。そしてかれらの椅子に対する情熱。座ってみたいと感じるのは、ただ美しさ、かっこよさだけが理由ではない。
デザイナー別の編集。アルファベット順なので、作者が分かっていれば探しやすい。巻末にはかれらのプロフィールがまとめて掲載されている。
 

Chairs [ICONS]

1000 Chairs
Windsor Chairs
An Encyclopedia of Chairs
Mackintosh
ハンス・ヴェグナーの椅子
イームズのすべて

工業デザイン Industrial Design A-Z: Charlotte & Peter Fiell

上記と同じシリーズで著者も同じ。19世紀末から20世紀を彩ったさまざまなインダストリアル・デザインにスポットを当てたものだ。ドイツAEG社からツェッペリンまで、アルファベット順にデザイナー名、企業名で分類されている。
20世紀はデザインの世紀だったというのは、インダストリアル・デザインの分野にこそ当てはまる言葉ではないだろうか。それは20世紀が工業の世紀だったことを意味するのだが、せいぜい100年ほどの間に、わたしたちの生活は隅から隅まで工業製品に埋めつくされてしまった。モノのあふれる世界。そしてそのモノたちは機能性と美しさを求めて洗練に洗練を重ねてきたのである。
厳選されているので見覚えのあるもの、使ったことのあるもの(ビックのボールペンとかね)がいくつもある。数十年前の未来的デザインが今となっては懐かしさを感じさせるのも面白い。時代が変わってもお国ぶりは受け継がれていたり、見方によっていろいろに楽しめるだろう。マスターみたいに平面の仕事ばかりしている人間にも、空間デザインという観点から参考になり、刺激になる。
 

Industrial Design A-Z [ICONS]

Scandinavian Design
Designing the 21st Century
インダストリアル・デザインが面白い
プロダクトデザイン
デザインのたくらみ

チャペックの本棚 チャペックの本棚―ヨゼフ・チャペックの装幀デザイン

先ごろ印刷博物館で紹介されたのでご存知の方もあるかも知れない。ヨゼフ・チャペックはチェコの作家カレル・チャペックの兄で、画家であり、文筆家であり、装幀家でもあった。弟は「ロボット」の生みの親であり、本書の表紙もそれを意識させるものになっている。ヨゼフは1920年頃から盛んになったチェコ・アヴァンギャルド運動の中心人物の一人とされ、かれの作品は現在のブック・デザイン、タイポグラフィにも多大な影響を及ぼしている。
本書は千野栄一コレクションの119点をカラー図版で紹介したもの。千野の短文が巻頭に付され、チャペック自身による簡潔な「本の表紙はどのように作るか」があるほかはすべて図版。画家でもあった人だけにみずからの手になる具象をあしらった作品も多いが、単純化のセンス、色使いの巧みさ、素材の処理の多彩さなど感心させられるものばかり。アナログ作品の温かみも感じられ、懐かしいような新鮮なような…。
弟の本のための装幀もかなりある。『マクロプロス事件』など時代を感じさせるものもあり、そういった意味でも興味深い作品集になっている。
 

チャペックの本棚

カレル・チャペックは
ロボット(岩波文庫)
チャペックの犬と猫のお話

楽譜表紙集  内容例 Play It Again
30 Vintage sheet music postcards

20世紀初頭の30年ほどの間に出版された楽譜の表紙コレクション。紙箱入りでポストカードとして使える30枚セットになっている。知っている曲は“When Your Lover Has Gone”や“Reaching for the Moon”など数曲しかなかった。スタンダード化せずに消えていった往年のポップヒットがほとんどだった。
しかし今や無名のこれらの曲が、趣向を凝らした多彩なデザインで市場に出まわっていた時代があったのだ。絵画的なもの、ミュシャを思わせるもの、写真入りのもの、モダニズムの影響を受けたものなど、さまざまなタイプがあるのに驚く。1枚だけ見るとどうってことない作品も混じるが、時代の空気を反映したものばかりが選ばれている。ノスタルジーを楽しむもよし、机上に飾るもよし、100年前のデザインを学ぶもよし。ただ、使ってしまうのはもったいない?
 

Play It Again (Chronicle Books)

William Morris Postcards
Hello Blythe! Postcards
Emily the Strange Postcards

佐内正史:生きている 生きている:佐内正史

佐内正史のデビュー写真集『生きている』。手元にあるのは第三版だが、一時期入手困難だったことがある。佐内が「好きなように撮った」ときの「匂い」が濃厚な作品だ。「匂い」といわず「色」といってもいい。
「生きている」ものは「死んでいく」ものである。日常の中でふと目にしたもの、美しいからでもなく珍しいからでもなく、どうということもない光景がなぜか記憶に残っている。思い出は意味があるが、記憶に意味はない。意味なく記憶された光景が、ほんの一瞬ののちに早くも変質をはじめる。ここにおさめられた写真のどれもこれもが同じフィルタをかけられたように見えるのは、記憶が変質しはじめているからだ。
ここでは時が止まっている。写真だからではない。過去→現在→未来という流れから切り離されているのだ。浮遊する「一瞬」。あるべきところから離れてしまった記憶の断片。失われた「意味」。
人物であれ、植物やガードレールであれ、同じ色に染められ、同じ匂いを発している。さっきまでは「生きていた」ものの色であり、匂いである。これらが「死んでいく」ものの姿に見えたとき、あなたは佐内の記憶に寄り添い、いとおしさを感じることができるだろうか。それとも虚無の深みに降りていくだろうか。

○315mm×280mmの大型本。

 

生きている

続編はこちら
鉄火

a girl like you 君になりたい。
女生徒(太宰 治)
自分じゃない人

うたたね―死んでしまうということ

 
ヴィクトリア朝絵画

Victorian Painting : Christopher Wood

ヴィクトリア朝絵画というとラファエル前派ばかりが有名で、アカデミズムの大物たちや風景画の名手たちはほとんど知られていないのが実情。わが国の美術教育のあり方からしてもアカデミズムを好ましくないものとする価値観を植えつけてきたように思える。
しかしかれらの実力は有名画家に劣らない。たしかなデッサン力、卓越した描出力をもつ画家がいくらでもいるのだ。ヴィクトリア朝絵画の愛好家もその多くがアカデミズム絵画の愛好家であり、洋書でかれらの作品集が多く出版されていることからも人気のほどをうかがい知ることができる。

本書はさまざまなタイプのヴィクトリア朝作品をムーブメントや画題によって分類し、その全容を手際よく紹介したもの。バランスからいうと風景画が少ない印象もあるが、名前さえ知らなかった巨匠(生前は巨匠と呼ばれていた)たちが数多く紹介されている。かれらの優れた技巧には感嘆するしかない。女性画家たちの楚々とした絵画も心なごむ佳品が多い。ティソに代表される「風俗画家」たちの作品も、当時の英国の暮らし・文化を記録したものとして興味深い。貧困者に目を向けた社会派ともいうべき画家がいたことは、この画集を見て初めて知った。多彩な作品を見ているとヴィクトリア朝英国画壇の繁栄ぶり、懐の深さを実感することができる。

著者クリストファー・ウッドはヴィクトリア朝絵画研究のオーソリティ。懇切な解説文は読み応えがある(すごいボリュウムでわたしはまだ読み切れていないけど…)。

 

Victorian Painting

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